特集

ブシロード木谷社長「目指すはカードゲーム世界一」
  ※聞き手=中野経済新聞編集長 杉山司

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■はじめに

 

杉山:いつもは立ち話でしたが、今回このようなお時間を設けていただき、ありがとうございます。本日はよろしくお願いします。現在ブシロードは中野坂上に本社を構えられていますが、2007年にブシロードを設立した場所をお教えいただけますか?

 

木谷社長:同じ中野坂上で、現在の本社から近くの山手通り沿いでした。中野坂上は自宅から通えて、なおかつ便利なところが良いですね。新宿にも近く、交通の便が良いのも大きいです。当時はTCGの制作会社やオンライン事業のパートナー企業も近くにありました。

 

■世界を飛び回る

 

杉山:2007年に創業して7年半、グループ全体で年商200億円を超え、昨年はTCG業界でナンバーワンとなったわけですが、社長が掲げている「TCG世界一」を目指して最近ではシンガポールやアメリカにも進出し、ほとんどを海外で過ごされていると伺っておりますが…

 

木谷社長: 8月から日本とシンガポールを行き来する生活が始まっていて、11月は1ヶ月通して帰国しませんでした。1ヶ月海外に滞在したのは25年ぶりのことです。シンガポール勤務になってからは毎日海外のチームがなにをやっているのかを、メールや電話などではなく直接見て、聞いて、理解して更に海外マーケティングが拡大出来るよう試行錯誤の毎日です。

 

 

■中野について

 

杉山:なるほど。「TCG業界世界一」への道のりは着実に進んでいるわけですね。ところで、世界とは逆に、中野についてはどう思われますか?実は中野区内のコンテンツ団体が中野の商店街をそれぞれ擬人化したり、中野区内にある妖怪のテーマパーク「哲学堂」を聖地とした妖怪での街おこしなどを考え、カードゲームを有効活用したらどうかという話が持ち上がっておりますが、社長から見て何かアドバイスはございますか?

 

木谷社長:中野のポテンシャルはすごく高いと思います。中野の象徴はやはり中野ブロードウェイ中野サンプラザですよね。2つとも駅から近いし知名度もありますから、そこを拡大すべきだと思います。そして新しくできた中野セントラルパークを複合的に結びつけたほうが中野の特徴が集約されて良いと思います。

 

 

■マニアだけでは拡大しない

 

杉山:現在サブカルチャー業界では、秋葉原は「オタクの街」、池袋は「腐女子の街」、中野は「マニアの街」と位置づけています。以前、社長がプロレス雑誌のインタビューで「マーケットはマニアがつぶす」とおっしゃってました。「マニア」という市場を支えるコアユーザーと「一般消費者」が共生共存できる街じゃないとマーケットとしての広がりがないと。最近は池袋から「らしんばん」がブロードウェイに出店したり、秋葉原のメイドカフェが中野に進出してきたり、少しずつ「マニア」と「一般消費者」が共存できる街になってきた感はありますが、まだまだですね。

 

木谷社長:最近、秋葉原はショップが大型化し、小さい店はなくなりつつあります。そう意味では「マス」の街になってきました。だから中野はマニア部分をもっと拡大しつつ、少し興味を持っている客層も充分楽しめる部分を広げていったほうが良いと思うんです。そういう意味ではテレビという「マス」を有効活用し、多くの人に情報が伝わって、その情報がマニアックな内容だったら、相当効果が出ると思いますよ。

 

杉山:なるほど。テレビ番組で街のいいところを継続的に紹介するということですね。その視点は持ち合わせていませんでした。

 

木谷社長:中野にしかないものを取材し、毎週紹介する。5分枠でもテレビの影響力は大きいですからね。一般の人が視聴する可能性のある時間帯、具体的には22時台の枠ですかね。10万人以上が視聴しているんですよ。中野はおもしろくてマニアックな店が多いので、テレビ番組としてはいいものができると思います。

 

■グローバル

 

杉山:本当ですか!ありがとうございます。ちなみに現在、中野にはグローバル戦略というものがあるのですが、まだまだ検討段階。中野はもっと海外からの来街者を増やしたいと思っておりますが、「世界一」を目指す社長から見て、中野に足りないことは何でしょうか?

 

木谷社長:世界中にいるヴァンガードのファンも、まだまだ日本語版のカードで遊んでいる人が多いですが、本当は母国語のカードで遊び、マニア度の高い人が日本語版も持っているという形を目指しています。母国語じゃないとマーケットは拡大されないですからね。株式市場でもそうですが、海外からの評価に差が出るのはやはり海外への情報発信力や展開力だと思います。いかに中野のいいところをさまざまな母国語で海外に向けて発信できるかを考え、、情報発信力を世界標準に合わせるのはどうでしょうか。人口動向から見ても、日本市場は飽和しつつあります。東南アジアなどの若い国がこれから豊かになっていき、世界的なマーケットは広がりつつあるので、企業も自治体も国境を飛び越えて、マーケット範囲を広く取るべきだと思います。壁となっているのは言語だけです日本の楽曲もコンテンツも言語の壁を越えなければ広げることは難しいと思います。

 

 

杉山:そういう意味では世界に対して情報を発信できていませんから、世界から中野はまだまったく見えてない状態ですね。対策を考えます。話は変わりますが、ブシロードのサイトで「あなたの考えたクエストを募集します」という内容を拝見し、「消費者の声を主軸のサービスに反映しているのはすごい」と感じました。ワンウェイよりも声を反映し、進化することが事業成功の秘訣でしょうか?

 

木谷社長:現在放送中のカードファイト!!ヴァンガードG(午前10時~テレビ東京系列・BSジャパンで放送中)で、あるファイトシーンの表現に関して既存ユーザーにも不評だったことを知ったのをきっかけに、感想を募集しました。頂いた感想を参考にし、作品に反映させる。そうするとユーザー様に参加意識が生まれ、作品をもっと好きになって貰えると思うんです。

 

杉山:そのあたりはブシロードの社員が自発的に行っているのでしょうか?

 

木谷社長:個別ではありますが、まだまだです。新しいことは思いつくには経験が必要だと思います。いろんな経験をして引き出しが増え、その中からピックアップして新しいものを組み上げることが出来れば、新しいことを思いつくようになります。

 

■「リアル」と「バーチャル」の融合

 

杉山:今後のエンタメ業界についてお聞かせください。

 

木谷社長:これからエンタメ業界は、小さな国からでも有力な企業が現れる可能性があります。インターネットというインフラがあるため、小さい国でも世界中で課金できるようになりましたから、日本から出て行かなくても言語のことさえ注意すれば、世界中から課金される可能性、特にスマートフォンゲームを中心にグローバルに稼げる可能性があります。これからは、「リアル」と「バーチャル」の融合が出来て、海外展開力の高い企業の評価も高くなると思います。

 

杉山:ブシロードはゲームも店舗もプロモーションも「リアル」と「バーチャル」をちゃんと融合させていると感じており、そこが成功の秘訣と思うのですが…

 

 

木谷社長:現在カードゲームの売り上げが6割、残りはそのほかのビジネスなどといった感じですが、絶対にデジタル化できないライブエンターテイメントというものを重視するようになりました。それがコンサートやプロレスの興行です。当社ではカードゲーム」「デジタルオンライン」「ライブエンタテインメントとして3つに区切っています。この3つの領域は、当然重なる部分もあるので、それぞれをどのように戦略的に動かすべきかを考えていますが、それとは別にグローバルに展開するというくくりが別に存在しています。国内事業と海外事業という大きなくくりで分けて考えるのではなく、3つの事業を展開する上で当たり前のようにグローバルという要素を盛り込んでいくようにしています。そしてどのような手段を使ってもアナログなカードゲームを触らせるのかを考えることがブシロードの戦略としては重要だと考えています。カードゲームに関してはかつて「MtG」「遊戯王」「ポケモン」などが広げてくれた世界中の店舗網がすでに存在し、さらにそれを広げることでブシロードの海外展開にとって大きな効果をもたらしています。現在は約30カ国とお取り引きが出来るようになりました。サービスは日本から、プロモーションは現地で、という形など、いろいろな組み合わせを考え効果的な展開に努めています。

 

杉山:いろいろお話いただき、ありがとうございました。今日のお話は、中野の魅力を高める手段、「マニア」度を深くするだけでなく一般消費者層も取り込める街づくり、海外からの来街者を増やすための情報発信戦略、「リアル」と「バーチャル」の融合戦略など、中野のためにも、そして経営者としてのお考えも大変勉強になったと感じています。長時間お付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

■さいごに

 

インタビューのあと、壁についての話をされていた。自治体や企業がPRやビジネスをする際、「日本」「東京」「中野」などでくくっていること自体がナンセンスである、とおっしゃっていたのが印象的だった。木谷社長の中では事業種類の区別はあるものの、国境は存在しない。だからこそブシロードの「カードゲーム世界一」は近い将来実現すると確信した。知識や経験を武器に、オーナー企業ならではの手法で世界を席巻するブシロード、どこまで成長し続けるのか楽しみなエンターテイメント企業だ。

 

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