版画家の故・一原有徳(いちはらありのり)さん個展「今もネガの街」展が6月12日、廃業した写真館をリノベーションしたギャラリー「スタジオ35分」(中野区上高田5)で始まる。
1910(明治43)年生まれで2010(平成22)年に100歳でその生涯を閉じた版画家の一原さんは、幼くして北海道に移住。1927(昭和2)年当時の逓信省小樽貯金局に入局、定年まで43年間勤務。一方、休暇を利用しながら登山家、俳人、文筆家として活躍、40歳を越えてから画家、版画家として活動を始めた。画業が美術評論家の故・土方定一さんの目に留まり、土方さんの推薦により1960(昭和35)年に東京画廊で初の個展を開催、アンフォルメルの新星として注目された。
一原さんがパレット代わりに使っていた石版石に美しい図像ができるのを紙に刷りとることから始めたモノタイプ作品、金属版によるさまざまな実験的な製版によって制作された金属凹版版画は独特の世界を生み出し、その画面は同ギャラリーが力を入れている「主観主義写真」にも通じる造形美を表しているという。晩年の様子は生前撮影された記録映像を含め、昨年5月にNHKの美術番組「日曜美術館」で特集された。
同ギャラリー代表の酒航太さんは「一原有徳の作品は美術館以外では滅多に展示されない。この機会に奇才、一原有徳の作品をぜひご覧いただければ」と話す。
開催時間は18時~23時。日曜・月曜・火曜定休。今月29日まで。