西武新宿線都立家政駅近くの人気洋菓子店「フランス菓子ふじの木」(中野区若宮3、TEL 03-3330-4261)が5月31日、94年の歴史に幕を下ろす。
2011年の「中野の逸品グランプリ」最終審査で「おみやげ部門」の最高評価を得た焼き菓子ギフト「中野みやげ噺(ばなし)」、漫画家・ちばてつやさんデザインの都立家政マスコット「かせいチャン」の名前を冠したシュークリーム「かせいチャンdeシュー」など、3代目の店主・田中祥一さんが手掛ける地元愛のある人気のフランス菓子を世に送り出してきた同店。2014年には中野区認定観光資源、2015年にはNAKANOブランドに認定された。
初代が1924(大正13)年、青梅街道沿いの旧都電杉並線の高円寺車庫の向かいパン屋「藤乃木」を創業。当時はパンの店頭販売のほか、自転車でも販売していた。田中さんの記憶によると「藤乃木」の店名の由来は、初代の生家に大きな藤の木があったことと、日露戦争で活躍した乃木希典陸軍大将のファンだったことという。現在、東京都内に数店舗ある「藤乃木パン」のルーツになっているとのことで、「藤乃木本店」と称した。
1933(昭和8)年、高円寺の店を従業員の立川さんに譲り、現在の西武新宿線野方駅近くに移転。和の生菓子の製造も始めた。1938(昭和13)年、中野区桃園町から東京府立中野高等家政女学校が鷺宮に移転することに伴い西武新宿線府立家政駅(現・都立家政駅)が開設されたことから、同駅前の現在店舗がある場所に売店を開設。戦時中、空襲の恐れがあったため、住まいと工場を野方から移転し、以後野方店は売店のみとなった。都立家政駅周辺で現在営業している店の中で最も古い店舗が同店。
1965(昭和40)年前後に人手不足などからパンの製造を終了し、洋菓子と和菓子の製造販売に業務転換し、それに伴い野方店は閉店。1967(昭和42)年ごろ、夏場対策から喫茶室の営業を始め、最大で80席以上の規模になった。田中さんによると当時、都立家政周辺で青島幸男さん主演の「意地悪ばあさん」のロケをしていて、同番組プロデューサーと監督がよく来ていたという。
1977(昭和52)年、和菓子の製造を終了。翌年、戦前から増築を繰り返して老朽化した工場を含む建物を建て替え、店舗は洋菓子と喫茶となった。1981(昭和56)年には店舗を全面改装し、洋菓子・喫茶「ふじの木」としてリニューアルオープン。1994年には戦前から増築を重ねて老朽化した店舗・喫茶部分の建物を壊して新店舗を新築し、「フランス菓子・喫茶ふじの木」として再度リニューアルオープン。その後、喫茶営業を終了し、現在に至る。
4月1日にはネット上に「いつもお引き立てをいただき厚く御礼申し上げます。さて、突然ではございますが、当店は本年5月末をもって閉店する事になりました。この地に開店して80年もの間、地域の皆様に支えられて営業を続けてまいりましたが、諸般の事情により廃業を決意した次第です。創業100周年を目前にしての苦渋の選択となりましたが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。また、ご不便ご迷惑をおかけすることになり、深くお詫び申し上げます。皆様の長年にわたるご愛顧に心から感謝申しあげますとともに、今後のご健勝とご多幸をお祈りいたします。藤乃木本店 三代目 店主」(原文ママ)という情報が突然流れ、ファンからは「エイプリルフールかと思った」「えっ、うそでしょ?エイプリルフールだよね」「本当なら悲しいです」(以上、原文ママ)などの書き込みがあった。
田中さんは「いろいろあって廃業を考えざるを得なくなった。ただ、これを決めたときはきっぱりやめるつもりだったが、お客さんからは『続けてほしい』『ふじの木のケーキがもっと食べたい』などの声を頂き、一度充電期間を置いたら、移転縮小して再開してみるか、という気持ちに少しだけなってきた。いったん廃業するので、ファンの皆さまには申し訳ない。またいつか」と話す。
閉店までは不定期営業となるため、営業時間やオープン日はホームページやフェイスブックなどで伝える。